女性専用クリニック オールアバウトブレスト
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学会・研究会活動報告
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第45回 九州医学検査学会(大分)にて講演

乳がん治療の進歩と変遷 〜血清HER-2タンパク測定と分子標的治療〜

ブレストピアなんば病院 乳腺腫瘍外科 町田 英一郎


乳癌治療の歴史を調べると古くは紀元前3000年の古代エジプトで外科的治療がなされた記録がある。
世界では18世紀に入り現在の西洋医学でいう外科医が乳癌の治療手技を論じるようになり、19世紀には多くの著明な外科医が乳癌の手術を行い、その成績を競いあった。
日本では江戸時代後期1804年に紀州の外科医 華岡青洲が世界で初めて麻酔を用いた乳癌手術を成功させた。
今日の乳癌手術の基となる術式を考案したのが19世紀末のウィリアム•ハルステッド(米国)で、腫瘤を含む全乳房と胸筋、周囲のリンパ節をまとめて切除するという術式であった。
”癌はまずリンパ節へと転移し、その後に全身へ広がる。”
”所属リンパ節は癌の転移を止めるバリアであり、最大限の局所制御が治療成績に反映する”という「ハルステッドの理論」に基ずく、この術式がその後100年ほど標準術式となった。
その後、20世紀に入りベルナルド•フィッシャー(米国)が“乳癌は基底膜を破る(浸潤する)や否やリンパ節と全身へ転移を起こす”という「フィッシャーの理論(乳癌全身病説)」を提唱した。この事を実証するためNSABP(National Surgical Adjuvant Bowel and Breast Project)を率いて多くの臨床試験を行った。NSABP B-04では臨床的リンパ節転移陰性(N0)のグループに対し、腋窩リンパ節郭清の予後への影響を検証した。結果は非郭清群は高率にリンパ節への再発を認めたが、生存率に影響しない、つまり腋窩廓清は生存率の改善に寄与しないということであった。
この事から早期からの全身治療が予後改善の鍵であると考え、局所治療に依存してきたこれまでの治療から乳癌の病態を考慮した治療法へ変遷するようになった。
日本での乳癌の手術は1987年以降、胸筋を残す非定型乳房切除が主流となり、2003年には乳房温存術が乳房切除術の割合を上回った。現在、センチネルリンパ節生検が保険収載され腋窩リンパ節廓清を省略する症例も増えてきている。
乳癌の全身治療として化学療法、内分泌療法、分子標的療法などがあるが、延命、症状緩和を目的とした転移性乳癌の治療と治癒を目的とした術後補助療法。温存術を目的とした術前化学療法などでその用法が異なる。
この数年間のあいだに分子標的治療法とりわけ、上皮成長因子受容体(EGFR)の一つHER-2(Human epidermal growth factor receptor 2)をターゲットとしたモノクローナル抗体(トラスツズマブ)の登場で乳癌の約15〜20%を占めるHER-2陽性乳癌の治療成績が飛躍的に改善されてきた。
それまではHER-2陽性乳癌は増殖活性が高く、進行が早く、予後不良とされてきた。
HER-2蛋白は癌細胞の細胞膜に膜貫通型の蛋白として存在し、細胞内、貫通部、細胞外の3つで構成されている。
血清HER-2とはその細胞外ドメイン(extracellular domain:ECD)が分離(shedding)し、血液中に遊離したものを測定したものである。
トラスツズマブはHER-2蛋白のECDに結合し、その後に起こる、細胞内でのチロシンキナーゼ活性を抑制し、増殖のシグナル伝達を停止させていると考えられている。またHER-2蛋白に結合することで、免疫細胞に標的細胞であることを認識させ、抗体依存性細胞障害活性(ADCC)により殺傷する場合もある。
当院では2009年4月よりシーメンス社のケンタウルスを用いて血清HER-2を測定している。血清HER-2はその発現過程からHER-2陽性乳癌の総腫瘍量を反映している可能性があり、注目されている。
血清HER-2はこれまでのどの腫瘍マーカーよりも発現経緯がはっきりしている。実臨床でも①HER-2陽性乳癌の転移•再発の指標 ②予後予測因子としての指標 ③治療効果判定の指標 ④至適治療薬の投与量•投与期間の設定などに有効であると思われる。
当院のデーターより乳癌手術による血清HER-2の変化について報告した。(2010年4月第110回日本外科学会総会)
また、2010年6月に行われる第18回日本乳癌学会総会では血清HER-2とTMN分類との相関について検討し、血清HER-2がHER-2陽性乳癌のsurrogate markerとなり得る可能性を示す予定である。
今回、以上のことをまとめてご報告させて頂く。


投稿日時:2010.09.11(Sat) 00:00:00|投稿者:machida


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